ニッチ

log [ コラム ] — s_o @ 27. 4月, 2004

 
アトリエ帰り、終電を待ってハンバーガーショップ。

ドイツのくせに珍しく、ポメス(フライドポテト)がマズかった。

味を薄めた片口イワシみたいなポメスを齧りながら、
垂れ流されてるドイツテレビを、見るでもなく眺める。
 
 
ところで 窓際に座ってるじいさんが動かない。

ここで突っ込みを入れて然るべき、という絶妙な間で
じいさんは思い出したようにカップを口に運ぶ。

テレビよかよっぽど面白かったので、
ずっとじいさんを眺めていた。

するとじいさん、突然向きを変える。

しまった!と思った時にはもう遅かった。

動かなかったじいさん、なぜか口は動く。

ただでさえドイツ語わからないのに、
じいさんイタリア系らしく、aber (アーバー、”しかし”)が
アーベル(椎名林檎マキ舌)になってる。

悲鳴をあげそうになった。

薄ら笑いを浮かべて、なにひとつ理解していない日本人と
その前で何故か満足気な、テンションの低いラテン老人。

テレビからはライオネル=リッチーの甘いバラードが流れはじめる。

バーガーショップ店内は、さながら地獄絵図の様相を呈してきた。

ブラウン管の向こうでは、ライオネル=リッチーが
よだれ垂れそうなほど歌い上げている。
白目をむきそうな勢いだ。

かえてこちらは、口は開いたものの相変わらず時間の流れを無視した動きの
老人が、壊れたエスカレーターみたいな動きで再びカップを口に運ぶ。

できれば、リッチーになりたかった。変わってほしかった。

黒くてもいい。変なアフロって人に後ろ指さされても構わない。

白目をむきヨダレを垂らし『自分のことで手いっぱい』感を世界にアピールしたい。
 
 
じいさん以外、時間は確実に流れた。

終電くるのでサヨウナラ、言うと
待ってたら終電ノガしそうなくらいゆっくり、彼は手をあげた。
 
 
『よい夜を』
 
 
じいさんは言った。
 
 
終電に揺られながら、リッチーにならなくてよかったと思った。

向こうもだろうけど。

アフロはいいけど、リッチーはやだ。
 
 
自由はいいが金ないのはちょっとな、甘い声でリッチーは言った。

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