トマト

log [ コラム ] — s_o @ 11. 5月, 2004

 
雨ふってて真夜中で、
路面電車の停留所、きちゃないおっさんと二人きりでいた。

独りでプカプカ煙草吸ってるの気まずいので
おっさん、吸う?て聞くと
驚いたように顔をしかめたあと、
なんかぶつぶつ言って受け取った。

袋ごと持ってかれそうだったので、取りかえす。

電車はなかなか来なくて、雨はあいかわらず静かだった。

考えるまでもなく、その世界にはおっさんと自分以外
名前のあるものなんてなんにもなかった。

そしてあまりに電車が遅いので、
二人とももう とうに名前なんて無くしていた。

おっさんがトマトソースの缶詰めを、ぐいと こちらへよこす。

「煙草一本でこんなん貰われへんわ。」

返すと、
おっさんは無視して、「わしホカない」と言った。

頑固なので、彼の古びたかばんに缶詰めを無理矢理つっこむと、
ほんとにその缶詰め以外なんも入ってなかった。

おっさんの乗る電車がやってきて、
まだ雨が降っていた。

目で電車を見遣ると、
車内でおっさんが、地面に平行に腰のまがった婆さんを手伝ってた。

眠そうだった。

電車がなかなか来ないので、
長いアクビをした。

雨が降ってるのに、星が見えた。

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