ヘキレ

log [ コラム ] — s_o @ 01. 7月, 2004

800日ぶり日本

顔をあげると、目の前に『幡ヶ谷』と書いてあって、むこうに松屋が見えた。

どういう経緯でそういうことになったのか、思い出せなかった。

考えようとすると、頭がキシキシする。

視界の隅にある松屋で席に着き20分くらい待ってなにも起こらなくて
ありゃ、知らない間に世界から除籍されたのか?
ぼんやりしていると、
『あの、、お客様、、。食券。』
お客様と店員のあつい視線に笑顔で応えると、
なんとなく、今のなかったことにしよう風の気まずいムードが店内に流れた。

生卵をかきまわしていると、
卵以上に適当にかきまぜられた記憶がよみがえる。

並べようとする。

赤いビルを目指して、歩いていた。

下北沢 旧友のライブ。
貰ったチケットで、かぱかぱ飲んだバーボン。
日本くる直前そういえば全然眠っていなかった、と思いだした瞬間
ライブハウスのスタッフに、『大丈夫ですか?』と耳元で言われる。
ステージが横向きだった。世界が横向きだった。

『大きい音をずっと聞いていると、気分わるくなっちゃうんですよ。』

やさしい人やな、思った。

水をもらって
大丈夫ですすいませんと
余裕ぶり常識大人ぶりをアピールするためにタバコに火をつけると
本格的に気持ち悪くなる。

ライブの演奏終わると同時に、外へ出る。
椅子から転げ落ちたらしく、手首と肘に鈍痛。
肘から小学生みたいな血が出ていた。

久々に会う人々の前でグロッキーになってるのも気まずいので
フラフラ歩く。

カナダから仕事で来てるらしい夫妻や、
モロッコから旅行で来たらしい人見知りの若者と話をした。

帰れなくなってライブハウスまでの道のりを聞いた。
気がつくと、見たこともない場所まで歩いていて、
疲れて地面に座ってふと顔を上げると
幡ヶ谷と松屋が見えた。

ようやく食券を買って、豚肉の牛丼を待っていた。
思い出し並べ終わると、あまりにもしょうむないので
引き続き赤いビルを目指すと、新宿に出た。

路上で、ギターを抱えたアクセサリ売りと話した。

– ここ、空気はやいね。日本疲れる?

イスラエルから来たという彼と、
アスファルトに寝そべるナメクジみたいな路石に座って話し込む。

彼のギターと合わせて、リュックに入ってた口琴や口笛でセッションをする。

商売邪魔してごめん

『いや、ええよこんな時間、客こないし』

あんま人通らんね、ここ。

sk(仮名)と名乗る彼は呟く。

『あっちの通りで戦争が始まったら』

遠い目でビルの向こうを指差し、sk は続けた。
 
 
『ここにも人だかりができる』
 
 
陳列台を照らす発電機のガソリンが切れたころ、
skの仲間の男と、メロンアイスを頬張る日本人の女の子が
並んでやって来る。

彼女は受験生らしく、流暢な英語でコミュニケーションをとる。
イスラエルからの2人とはもう、古くからの付き合いらしかった。

美術館に誘ったのに映画見ようよと言われるのにウンザリしていた。

まぁ映画も好きだけど、と言って彼女はメロンアイスを食い終わる。

でもさ。とまた言った。

2人のアクセサリ売りは、うちに来いよと誘ってくれた。
せんまいよーと、やりとりを見ていた女の子が笑った。

今度は、skの仲間が買ってきたメロンチューハイを飲んでいた。
プシュと開けて一口で、ぐぁと呻いて赤くなった。

お礼に片付けるのを手伝おうとすると、
女の子がいいのいいの、と言った。
あのひとたち、自分の仕事ヒトに触られるのやみたいなの。
ふぅん、とタバコに火をつけると、ひょぅ、と風がふいて
煙は赤いビルのてっぺんに運ばれていった。

あたしたちいっつもここにいるから

と彼女が言った。

雨の日以外は。

受験生なのに、勉強しなくていいの?と聞くと、
受験生には、夏休みなんてないのよ。って言った。

変な形の銅像の前で、月を見た。
明るい夜の中でいつまでたってもそれは、
ネオンだった。

空に向かって、煙を吐いた。
同じ顔をした同じ意識が同じ動きで見る同じ景色。
 
 

/ shinjuku , japan

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