log [ コラム ] — s_o @ 20. 1月, 2005

00066wind.jpg

日本に帰ったとき、ル・ポールが言った。

ル・ 『ネットで日記を公開するという行為の趣旨がわからん。』

ワシ 「あ、そう?」

ル・ 『ボ・ヌール(私の呼称)も、やってるんか。』

ワシ 「あるけどあれ、日記やあれへんわ。
    誰か見ること知ってて書いてるから日記ちゃうな。」

ル・  『あ、そう。』

ル・ポールが、彼の偏頭痛の合間に語りかけてくる生気のない言葉を
ぼんやり聞いているのは心地よい。

ちっとも進化しない、成長・発展とは無縁な時間の流れは、
イライラするくらい在り方として正常な気がする。

3年ぶりに会ったその日は
やることもなく、あんまり懐かしくもないので
オートマ車のクリープ現象だけで前進していた。

ちょっと勾配になると、車はすぐに変な音をたてて止まった。

ル・ポールとはもう7年くらいの付き合いになるけど、
彼の生活についてはほとんど何も知らない。

一度だけ、家に行った時
『文系にでもわかる!相対性理論』
って本があって、突っ込んだ。

おまえ理系やないか。

なんかいつもIQ高いこと考えてる日本の恥部、ル・ポールが
こないだ電話でぼそっと言った。

『きのう、じいちゃん死んだ。』

年齢いけばいくほど、血縁関係とくに祖父母の死に対する当たり前度が増す。
だけど年齢いけばいくほど、感情のヒダや関係のシワは増していく。

世界の理はいつだって、自身で反比例しながら個を置いてけぼりにする。

ル・ポールからあまり湿った話を聞いたことがなかった。
いつもニンゲンを、定食屋の食品サンプルについて語るように語った。

『あ、じいちゃん』

一度、息を飲むスローテンポで散歩する老人を指差し
ル・ポールがつぶやいた。

世界に散らばり シゲり 絡まった無数のニンゲンカンケイ。

数ある興味ない分野の頂点を飾る興味ない事象の一つだけれど、

ただひとつ
ル・ポールとル・ポールじいちゃんのそれは例外だった。

「なあ、悲しかったん?」

『いや、全体的にあんまり。
 順番やからね。』

でも。
ル・ポールが言った。

一瞬号泣したわ。

「ふうん。」

雪に変わりそこねた雨が絶え間なく降っていて、
太陽が一瞬もでない一日。

一瞬もでないのは珍しい。と思った。

んなことないか。と迷った。

しばらく見ていないと、動いてるのかどうなのかよくわからないル・ポール祖父の
大らかで流れを無視した動きを思い出す。

樹は、なにかを待ったりしない。

冬になれば葉っぱは勝手に落ちまくるけど、
別にそれは葉っぱが落ちまくる以上のことではない。

古くにニョッキリ生えてきてこのかた、
なんべん春を迎えたんやろう。

知らんふりしていっつも
やがて春が来ることを知ってる。

やなやつやな。

知らんふりやなくて本当に知らんのかもしれない。

ただ、待たない。

春があるから今この冬を耐えているわけではなく、
やがて終わるからとイマを生きてるわけでもない。

通りを隔てて向こうにある
ガラス張りの巨大なオフィスビル2Fのハゲおやじが、
街路樹の葉が落ちて見通しのよくなったこの部屋を
コーヒーブレイクの合間に優雅に眺めている。

ニンゲンはせわしない。

くそぅ、ハゲ。磨くぞ野郎。

ひぃひぃ磨かれるハゲ頭を夢想しながら、
ル・ポールのじいちゃんのご冥福をお祈り。

磨くか祈るか、どっちかにしろ。

ニンゲンは、せわしない。

« | »
(c) 2019 sub-tle.