ger_code

log [ コラム ] — s_o @ 04. 8月, 2005

050804.jpg
『 “時間ない” が口癖だったオフクロが死んだのは一昨年だ。 』
40分待っても電車が来なかった。
久しぶりに夏らしいウンザリした昼下がりに、
そのホームレスはペットボトルのビールの蓋をしきりにヒネリながら
やることなさすぎてホウけるジャパニーズに話しかけてきた。
ときどきわからない単語があるので
聞き返すとホームレスは面倒くさそうにそれに答えた。
答えられてもいまひとつ意味がわからないので、
吸いかけの煙草を線路に投げて欠伸をした。
おっさんが『乾杯』と叫んだ。
無駄に長い野ざらしのホームには、自分ともう一人若いドイツ人がいて
ペットボトルビールを飲み終えたおっさんは今度は瓶のビールの栓を抜きながら
暇そうに一人ビールを飲む彼にもコミットしたのだった。
3人並んでベンチに座って、
何を待っているのかわからなくなるまで電車を待った。
たまにかわされる会話の中 まだ単語を聞き返していて、
今はその若者がよりわかりやすくその意味を説明した。
広げた左手に右手でコブシをバシバシ打ちつけて、にやっと呆れたような笑み。
ああ、セックスの話か。
おっさんは意味が伝わって嬉しかったのか、
自分も同んなじ動作をして、右手のコブシを大きく空に突き上げた。

『今年20になる息子が連れてきた嫁は、3人目だ』

電車は随分前の駅から遅れていたらしく、珍しく人でいっぱいだった。
訳の分からない取り合わせの3人はなんとなく乗客の視線を集めて、
電車は意志と痛みのない動物みたいにそれら全部を東に運んだ。
おっさんは次の駅で降りて、同じ駅で降りる若者とはそのまま話をした。
父親のアコーディオンの話をしながら、若者は鞄から出したビールをこちらによこした。
ウ゛ァイツェンビアの底に溜まっているカスを効率よく沈殿させる技をならって
窓のソトを流れるいつもの古い街並を眺めながら飲んだ。
電車の揺れはそこで初めて役割を与えられたみたいに酔いに倣う。
降りた駅のホームで腰掛けて話をする。
ウイスキーの小瓶を2本買ってきた若者は1つこちらによこして、
ゴミ箱にもたれかかって嘔吐する真似をして笑う。
歯磨き粉みたいなアジのするウイスキーは一瞬でなくなって
地下鉄の乗り口まで降りて若者を見送った。
「また。 ダンケ。」言うと
『おい、ダンケとかねえだろ。なにありがとうだよ。』
若者は怪訝な顔をして口許を歪めた。
中央駅の出口からアトリエに向かって歩くとまだ夏だった。
この目から見える全てには名前がなくて
とうの昔からそこにあった景色は、まだ何にも与えも与えられもせず
ゆっくりと肥えた。
こころざしなんてものがなくなってしまうまで繰り返したいと願う。
ヘッドフォンのコードの先っちょがどこにも繋がっていないことを悲観するほど
複雑でも単純でもないような気がした。

« | »
(c) 2019 sub-tle.