12月

log [ コラム ] — s_o @ 14. 12月, 2005

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そんなふうにして唐突に北と南の陸が融けたので、
大事な人はみな死んでしまったのです。
僕はといえば月曜の朝から、おねだり博物館・蝋人形コーナーにいたので
象られたマイケルジャクソンの具体的な肌触りを頼りにそこに生き残ったのでした。
マイケルジャクソン以外みんなクズだった事実を改めて確信した次第です。
僕はとっさに、死に損なった重要で価値のあるヒトビトをひとり残らず殺しておかねばと思いたったのですが
テンション高すぎて、全くもって元気印なので止しました。
そんなのマイケルジャクソンみたくてやだったのです。
マイケルはそんな印じゃねえ。取り消せ。ぽぅ。
同じように謂われなく生き残った、絶望的におっぱいが大きくてあまりアタマの良くなさそうな女の子とセックスをして
いてもいなくてもいい子供はおそろしくアバウトに、あってもなくてもいい世界に生まれました。
いてもいなくてもいい子供はやがて、大事な人がいなくなった星の生きていてもしょうがない人々の王になったのです。
生きていてもしょうがない人々は、いてもいなくてもいい子供のことを
そうなのかそうでないのかわからないくらい杜撰で正確に愛していました。
彼らの最低か最上かよくわからない敬意は、王様たるいてもいなくてもいい子供を『マダムキラー』と呼ばしめました。
いてもいなくてもいい子供たる王様のマダムキラーは、
或る日父から習ったスリラーを うろ覚えだったので紛擾オリジナル替え歌で歌っていたのですが、
その詞はあまりにも下品だったので、お笑い芸人や生きていてもしょうがない人々の嫉妬を買い糾弾されて
遽かに死刑を言い渡されました。
広いのか広くないのかわからない広場に設けられた死刑台で口腔にネコを突っ込まれて
いてもいなくてもいい王様と口の中のネコは概ね似たようなテンションで
嗚咽みたいに 恐縮で幸福そうな無音の悲鳴をあげました。
口の中のネコの飼い主は あってもなくてもいい町のいてもいなくてもいい地主で、5日目の便秘にひどく不機嫌でした。
口の中のネコはそんなこと知る由もないですし、飼い主のことはあんまりどうでもよかったので
地主が、広いのか広くないのかわからない広場にいるのかいないのか確かめもしませんでした。
ただ口の中はまあまあ狭いのでやにわにイライラしていました。
広いのか広くないのかわからない広場に集まった、生きていてもしょうがない人々は口々に何か呟いていました。
それが罵りなのか煽りなのか嬌声なのか、いてもいなくてもいい王様は頭もあるのかないのかわからない感じだったので、
よくわかりませんでした。
それはなにかメロディのようにも聴こえたのです。
『おいおい なんてこった スリラーよりてんでいい歌じゃん ROCK』
いてもいなくてもいい王様が ちぇ と舌打ちをしたので
いてもいなくてもいい王様の舌は 口にはさまっていたネコのよんどころなき急所を急襲しました。
口の中のネコはムかついて、ジュラ紀と白亜紀と八代亜紀を足したくらい長い欠伸をしました。
大きく開いたネコの口の向こう、生きていてもしょうがない人々のうえで、何かがキラリと燥ぎました。
生きていてもしょうがないヒトビトとあってもしょうがないその世界に音もなくさんざめいたのは、雪でした。
そのとき、地面に対して直角に広がったネコの口径の中心、つまりのどちんこんトコに一粒 雪の結晶が着床して
ネコは再び すごくムかつきました。
うっかりもう欠伸はできなかったので、
口の中のネコはカラマーゾフの兄弟に出てくる三男の友達の神学生のラキーチンみたくやけに世間擦れした溜め息をつきました。
そして、口を大きく開いてることを忘れて ちぇ と言いました。
雪の降る あってもなくてもいい世界の広いのか広くないのかわからない広場に
白い溜め息が咲き続けました。
やがて溜め息は、融けてしまった北と南の陸と一緒に雲になって
あってもなくてもいい世界の生きていてもしょうがない人々の上に
いてもいなくてもいい子供たる王様のマダムキラーの上に
また雪を降らせるのでした。
ないがしろにされた句読点のように素晴らしい歌が、
カラダから意味なくこぼれ落ちた王様の頭、耳たぶの向こう側でリフレインを始めました。
一緒にこぼれ落ちたネコの口は、まるで欠伸をしてるみたいでした。
『誰もが思ってからでないと動けないのですよ』
生きていてもしょうがない誰かがそう呟くと、
彼は今年のベスト・ジーニスト賞に選ばれました。
残念ながら今年の一言に選出されなかったのは、審査員長たる地主の便秘のせいでした。
生きていてもしょうがない人々は、いてもいなくてもいい王の死を悼みました。
あってもなくてもいい世界の、あるのかないのかわからない声は
いつかこの世界に重要で本当に大切なものが顕現してしまう日を憂えて
いつまでもそこにあるふりをしたのでした。

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