薄緑、羽根

log [ コラム ] — s_o @ 29. 4月, 2004

 
アトリエで終日作業。

ヘッドホンを外すと日付けが変わっていた。

空は一面曇っていて
雨は降らないのにずっと雷が轟いていた。

『頭を冷やせ』とよく人に言われる。
 
 
 
頭のおかしい人が、電車の中で大声で歌を謳っていた。

それは、取り返しのつかないくらい
兇悪で寒々しく 悲しい歌声だったので
身震いして電車から降りれなくなった。

歌いたい時に歌えない穏やかで平和な世界で、
その悲鳴とも嬌声ともつかぬ耳鳴りじみた声だけが、
唯一ヒトの姿をしている気がした。

世界を殺す為のただ一つの凶器は、
柄の部分が刃先よりもよく切れる。

しかも世界は、
例えばカミサマとか優しさだとか呼ばれる固くて獰猛な甲羅をつけてるので、
体重をかけないと、話にならない。

かけても、話にならない。

どうしょうもなくなって、
だらだらとありふれてきたので、
夜中に叫んでみる。

なんか泣きたくなるくらい情けない声だった。

隣に壁を蹴られる。

すこし、安心する。
 
 
世界が、自由なので、空を飛べそうな気がした。

ニッチ

log [ コラム ] — s_o @ 27. 4月, 2004

 
アトリエ帰り、終電を待ってハンバーガーショップ。

ドイツのくせに珍しく、ポメス(フライドポテト)がマズかった。

味を薄めた片口イワシみたいなポメスを齧りながら、
垂れ流されてるドイツテレビを、見るでもなく眺める。
 
 
ところで 窓際に座ってるじいさんが動かない。

ここで突っ込みを入れて然るべき、という絶妙な間で
じいさんは思い出したようにカップを口に運ぶ。

テレビよかよっぽど面白かったので、
ずっとじいさんを眺めていた。

するとじいさん、突然向きを変える。

しまった!と思った時にはもう遅かった。

動かなかったじいさん、なぜか口は動く。

ただでさえドイツ語わからないのに、
じいさんイタリア系らしく、aber (アーバー、”しかし”)が
アーベル(椎名林檎マキ舌)になってる。

悲鳴をあげそうになった。

薄ら笑いを浮かべて、なにひとつ理解していない日本人と
その前で何故か満足気な、テンションの低いラテン老人。

テレビからはライオネル=リッチーの甘いバラードが流れはじめる。

バーガーショップ店内は、さながら地獄絵図の様相を呈してきた。

ブラウン管の向こうでは、ライオネル=リッチーが
よだれ垂れそうなほど歌い上げている。
白目をむきそうな勢いだ。

かえてこちらは、口は開いたものの相変わらず時間の流れを無視した動きの
老人が、壊れたエスカレーターみたいな動きで再びカップを口に運ぶ。

できれば、リッチーになりたかった。変わってほしかった。

黒くてもいい。変なアフロって人に後ろ指さされても構わない。

白目をむきヨダレを垂らし『自分のことで手いっぱい』感を世界にアピールしたい。
 
 
じいさん以外、時間は確実に流れた。

終電くるのでサヨウナラ、言うと
待ってたら終電ノガしそうなくらいゆっくり、彼は手をあげた。
 
 
『よい夜を』
 
 
じいさんは言った。
 
 
終電に揺られながら、リッチーにならなくてよかったと思った。

向こうもだろうけど。

アフロはいいけど、リッチーはやだ。
 
 
自由はいいが金ないのはちょっとな、甘い声でリッチーは言った。

ウタ

log [ コラム ] — s_o @ 26. 4月, 2004

 
28日シメキリの音を、レコーディング。

NY , ドイツのギャラリーで公開される予定の音のスケッチ。

文明にウチステラレタ色のないマシーンみたいな音。

ロボットが感情を纏わずに抱く夢。

いただきものの、壊れたピアノの蓋をあけて手を突っ込み
さびついた弦を指でハジく。

アトリエに以前住んでいたピアニストが残していった、
アジアンメイドな日本の『パチンコ』のオモチャもREC。

電池切れかけで、フィーバーの時になる ”It’s a small world” が
ヘロヘロ。『もう、、あたし、、歌えない』感じ。

ウタを忘れたパチンコ。パチンコカナリヤ現代。

カズさんがセットアップしてる間にリハやりすぎて どんどん上手くなり、
本番後半ではフィーバーしまくり。

もう、、、いいよ、、、とコントロールルームで手を振るカズさんに気付かず
いつまでも、両目と鼻が ” 7 ” 。

ふと気がつくと、カズさんはもうミックスを始めていた。

しかたないので、ヘッドホンかけたまま
再びフィーバー。

あやうく終電のがすとこだった。

ここは、、、、、どこだっけ。

ここにいるのは、だれだ。

トハナ

log [ コラム ] — s_o @ 24. 4月, 2004

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ひさしぶりに朝早く起きたので公園を散歩してると、
今日は地球が動物園の匂いだった。

ん、うんこ踏んだか?思って靴の裏を確かめてみると、
名前を知らない紫色の花が、ぺちゃんこになってひっついていた。

花びらは、地球が始まった時からそこにいたような顔をして
気紛れに早起きした男の靴底で
静かに春の朝のくだらなさを説いていた。

この星を征服したような気になり調子づいて歩いていると、
向こうからおおよそ朝に似つかわしくない二人連れが歩いてきた。

固そうな白い肌をしたその緑色のモヒカンは、
よくホウ酸を染み込ませて火をつけたロウソクを思わせた。

連れてる女は、ミックジャガーその人だった。

『ねえ、煙草もってない?』

ミックジャガーが、話しかけてきた。

黙って2本差し出すと『一本でいいの』と
女は1本をこちらによこし、自分のに火をつけた。

ライター持っとんかい。
イライラした。

ホウ酸ロウソクは、そんなやり取りに気がついていないかのように
ぼんやり、そこいら中を駆け回るリスを眺めていた。

「ピーナッツもあるよ」

なんとなくそう言ってみると、
ロウソクはさして興味もなさそうに空を見上げた。

ミック女が、ロックスター特有のあの笑みを浮かべて言う。

『リスにあげるの?』

ふと、リス達に目をやると
ちちち、という間抜けで乾いた足音をたてて、
こちらを伺うでもなく
そぞろに何かを期待している。

「いや、おれリスあんま好きじゃない」

ロウソクが、初めてこちらをチラリと見た。

あいかわらず何にも喋らなかった。

そしてまたすぐ
まるで週休二日でそうすることを義務づけられてるみたく
なんにもない空に目をやった。

ミックは、ウルトラクイズばりに『?』を
頭上に点灯させた後、なかったことにしようと言わんばかりに
ロウソクをつれ さっさと行ってしまった。

ロックスターから返された煙草にそのまま火をつけて、歩く。

軽薄で高貴な、小さい足音がまだ世界を覆っていたので、
ポケットから取り出したピーナッツを口に放り込む。

もうこいつらにピーナッツやるのやめよう。

諦めたのか 目もくらむスピードで木をグルグル登っていくリスらを、眺める。
 
 
 
今日世界は、動物園の匂いがした。

紫色の花びらを、何べんも何べんも地球になすりつけたので、
明日は悲しい匂いに世界がさんざめくかもしれない。

しかしショっぱいなこのピーナツ。

なんじゃこりゃ。

PICT0008.jpg

アタマ

log [ コラム ] — s_o @ 22. 4月, 2004

遠くから歩いてくる子供が
両手で耳をふさいでいた。

暗い気持ちになりそーだったので、
なんで彼が世界を拒むのか
考えない事にする。

家に帰って眠ると、夢をみた。

自転車で走りながら、いろんなことを諦めていた。

なくなってしまったものの中に、
見覚えのないものがたくさんあった。

目を覚まして、煙草を吸おうとすると
ドアをがしがしノックする音が聞こえる。

隣のおっさん、また金借りにくる。

ないっちゅうねん。何回目やねん。

おっさんと暫く、井戸端会議。 大家の愚痴。

うちのハイツング(暖房)結局この冬壊れっぱなしだった、と言うと
おっさんは、
おれんとこも こないだ夜中に電源おとされた、と言った。

それはおまえがわるい。

夜中の3時に『カントリーロード』爆音で聴くな。

そのとき警察は、配電盤の電源を片っ端から落としたので、
ついでにうちの電気も落とされた。

ふぅ〜ん、という情けない音を立てて、
つくりこんだデータが『カントリーロード』に屠られる。
 
 
耳を両手でふさいでみる。
 
 
開いた窓からオンドのない風、心地いい。

ターボ

log [ コラム ] — s_o @ 18. 4月, 2004

意図的に変人ぶったりするの みっともないし、
かといって良識ある市民をやると
なにかにつけ居心地の悪い思いが悔しいし。

だから計算とコンセプト、策謀を
できるかぎり排除してうかうかしてると、
輪をかけておかしなことになってくる。

屏風に描かれたトラとの戦い方を、
うんうん唸りながら考えてる。

トラは、そんなこと知らない。

屏風に描かれたその日からずっと。

そのトラを屏風から、追い出さないでほしい。
 
 
 
アトリエへの行きすがら、ゲイのおヂさんにナンパされた。

『ねえ、きみは美しい』

おおよそ、かけられたことのない、
そしてそのままオンナノコ相手に流用しようかと思う程
自意識にアッパーな言葉を、
おヂさんは所構わず目をキラキラさせて繰り出してきた。

たのむ、凹んでるときの為に
そのコトバ録音させてくれ。
セルフもりあげに使うから。

三島由紀夫の『禁色』とか稲垣足穂とか、
ヘテロセクシャルは何かむしろ劣等感だったりしてまうけれど、
まあいいや。

困ったようなアヤフヤな笑みを浮かべてると、
おヂさんはトットとどっかいってしまった。

どこかしら不自然に漂うその完璧な肉体のオーラ、
おヂさんの背筋は、なにかを見据えたかのように
まっすぐだった。

ぼんやり信号を待つ欠落だらけの自我が、
だだっ広く、「焼け石に水」感の漂うこの世界に残される。
 
 
 
背中をまっすぐにして、歩いてみる。
おなら、でる。
いきおいで、わずかに前進。

ちょっと、、、もれてないだろな、いまの。

ヒコーキグモ

log [ コラム ] — s_o @ 15. 4月, 2004

もういい消えたい、とか
ぜんぶ消えて、とか
終日そんな衝動に襲われる分際で、
ひゃっ ゆうくらいしょうむない事に
心奪われる。

部屋がネギくさなるから街路樹の袂(たもと)に捨てた
ドイツネギの鉢の中身が、
犬の糞を礎に、スパーク。

閉店間際のスーパーではタチウチできないくらい
ゴージャスな逸品に。

革命の成功を心から確信したりする。

『世界の平和はおらが守る』状態になる。

ええからとりあえず、早よ机のうえ片付けろよ。
 
 
躁鬱病の名前を造った世界の抑揚には、
だれが名前をつけるんだろう。
 
 
もっと情緒不安定でありたい。

人より過剰にヨロコんで、必要以上に悲しみたい。

世界の8歩くらい手前で、つまづきたい。

そこで思いきり勘違いしてニヤッとしたい。

野々村君ばりに「そこちゃうて!」のタイミングで
スーパーひとし君をかけたい。

理性と打算と堪忍袋を9馬身差でぶっちぎり、
とびっきりのジャニーズスマイルで
ココイチを読み誤りたい。

生ザとりしたい。

同情したくない。

がんばれって言われたない。

嘘つきたい。

素直でありたくない。

あわれみたくもあわれまれたくもない。

応援したくない。

見守られたくない。

やさしくしたい。

悪口思いきり言いたい。

大便はみんなを心おきなく待たせたい。

『紙がない』って泣きさけぶ誰かを、
あたたかい微笑みで無視したい。

「金降ってけーへんか」と空を見上げて歩くより、
うつむいて歩いたほうが金落ちてる。

下を向いて歩こう。
あ!2ユーロ!
マルクやん、、、これ、、。
しかも、、、うんこついてるやん、、、だれ、、。

春きらい。

太陽きらい。

飛行機雲、
すき。

『いつものソラに
 ヒコウキグモみつけ
 すこしうれしい
 きもちが ハずかしい』

 ピンキージンバヴエ “若者生活”

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