アンディ

log [ コラム ] — s_o @ 31. 5月, 2004

早起きしたので、
朝っぱらから じいさんよろしく散歩。

地下に下る階段の手前で、うば車を持て余す母親に声をかけられる。

『ねぇ、ちょっと手を貸してくれない?』

地下鉄のホームまでベビーカーを担ぐ。

ありえへんくらい、重い。

運動不足がたたって、生来の もやしッコに磨きがかかったのか。

でも 意味不明に質量のある機材を普段持ち運んでて、
こと「重いもの運ぶ」に関しては、ちょっとは明るいはずだった。

それにしても、重い。

なんだこれは。

おどり場で、赤ん坊ごとベビーカー放り投げたろかと
理性の扉を開放しかけた時、ベビーカーについたカゴから、「ゴトッ」て音がした。

「ゴトッ」、、、。

クマのアップリケのついたそのベビーカーには、おおよそ似つかわしくない無愛想なトーン。

おばちゃん、、、かごん中、、、、。

満身創痍で地階のホームに辿り着くと、
おばちゃんは、さも興味なさげに「ダンケ」と言って、
とっとと行ってしまった。

よう見たら、自分の8倍くらいはパンチ力ありそうな立派なガタイをしていた。

これは新しい世界の新しい罰ゲームだ、と
偽善心が もたらす程よい恍惚を打ち砕かれたホウケづらの自我に、言い聞かす。

むやみやたらと、早起きなんてするもんじゃない。
 
 
 
天気がイイので、そのままアンディウォ−ホールの後期の展覧会に行く。

「30 のおもちゃ」という作品の前に座って ぼんやり眺めてると、
中年の闊達とした女の人が、幼な児を連れて展示ブースにやってきた。

『ほぅら、かわぃぃわね! ごらん!!』

おばちゃんは、満を持して同作品を見せたかったらしく、
うわずる声は 的を外したキューピッドの悲鳴みたくテンション高かった。

その子はずっと、こっちを見ていた。

『そのヒトじゃないわよ』 おばちゃん、困ったように微笑む。
「えへへ」 しまりのないテレ笑いしてると、
子供は、さも珍しい発見をしたように手を叩いて笑った。

子供の首をムリヤリ絵に向けようとしても、起き上がりこぼしのように
こちらを向くその子に、おばちゃんは苦笑って肩を竦めた。

「そっちがいいのね、、。この子、人間好きなの」

早起きしたかいあって、アンディから白星奪取。

勝因は、ゾンザイな朝仕度に因をなす剃り残しか?
 
 
 
一周まわった出口ちかくで、アンディウォ−ホールフィルムを上映していて
ちょうど、ずっと観たかった “HEAT” だったので、寝っころがって眺めていると、
最後のグダグダなオチに、おもわずやられてしまう。

絶妙な「金かえせ」感。 沈黙の「なんじゃそりゃ」がブース内を駆け巡る。

最高。

さきほどの白星、あっというまに零れオチル。

これだから、早起きなんてするもんじゃ、、(以下繰りかえし)

コラボ

log [ コラム ] — s_o @ 21. 5月, 2004

納得したりさせたりするの怖れたり、
伝えることに焦心したり、
そのことに憧憬や失望の念を抱いたり、
ニンゲンの寿命ごときで
やってるヒマないような気がしてきた。

だからっておざなりにする謂れも無いけど。

時間に淘汰されなかった「祈り」みたいな行為は
果たして矛盾だらけであるように、
とるに足りぬしょうむない悩みや毎日は
力ないくせに圧倒的やった。

おもちゃ屋のマイク付きカセットレコーダーに
サンプルで讃美歌が入ってた。

店ん中で、しゃがんでずっと聴いていると
ありえへんくらい不思議な気持ちになった。

うしろで、子供が順番を待ってた。

ちょっと待ってーな。
きみさっきずっと歌とてたがな。

また いわれのない朝がきて
道ばたに寝っ転がってた酔っぱらいが
大きな欠伸(アクビ)をする。

鳥が鳴かなくても世界は世界のまんまだろうけど、
チュンチュンゆわれて「ぎゃー朝やーん」って
あらゆる世界の欠片が思う。

だからまるで、朝はくる。

歩み寄りさえしなければ、
しまいにはきっと、泳いで白熊に会いにいけるくらい
すっこり抜けた視界がヒラける。

言い聞かす。

となりのネコ 外見て笑う。

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シャマんズ

log [ コラム ] — s_o @ 18. 5月, 2004

シャーマンのマーラが首からぶら下げている
シベリアの熊の毛のブローチに、手を触れようとすると

『あかん!』

と、彼女の師匠のおっさん(シャーマン)に止められた。

「しむら、うしろっ!」て言われた志村けんのごとく
いまいちピンとこず、ほうけ面をキープ。

ガダラの豚に出てきた、エケヤ(呪物)を思い出す。

カズさんと2人それぞれ、彼にニンゲンを見てもらう。

カズさんは、
『きみは、終わらない。ネバーエンドだ。終わらせろ。サヨナラだ。』
言われてた。

ふははは。

自分は、
『これはなんだ?楽器?
もっそ縦長の棒みたいなのに、オーボエのマウスピース。
おまえは、それがいい。』
 
いや、だからなによ、それ。

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ハル

log [ コラム ] — s_o @ 15. 5月, 2004

アトリエの時計が止まってて、
電話もまだ無いので、
そこはちょっと世界の穴みたいになっていた。

真夜中にビール飲みながらガンガンピアノたたく。

半分寝ながら、イルカの『なごり雪』熱唱。

田舎町の草臥れた酒場に置かれてたのを
無理矢理 引き取ったらしいその古いピアノは
チューニング、だだ狂い。

『掟は、わしじゃ』 と言わんばかりのその態度に、
ほんのり憧れる。

ずっと弾いてるので
だんだん音感が440kHzじゃなくなってきた。

脱力音感。

 春が来て きみ また そんな

トマト

log [ コラム ] — s_o @ 11. 5月, 2004

 
雨ふってて真夜中で、
路面電車の停留所、きちゃないおっさんと二人きりでいた。

独りでプカプカ煙草吸ってるの気まずいので
おっさん、吸う?て聞くと
驚いたように顔をしかめたあと、
なんかぶつぶつ言って受け取った。

袋ごと持ってかれそうだったので、取りかえす。

電車はなかなか来なくて、雨はあいかわらず静かだった。

考えるまでもなく、その世界にはおっさんと自分以外
名前のあるものなんてなんにもなかった。

そしてあまりに電車が遅いので、
二人とももう とうに名前なんて無くしていた。

おっさんがトマトソースの缶詰めを、ぐいと こちらへよこす。

「煙草一本でこんなん貰われへんわ。」

返すと、
おっさんは無視して、「わしホカない」と言った。

頑固なので、彼の古びたかばんに缶詰めを無理矢理つっこむと、
ほんとにその缶詰め以外なんも入ってなかった。

おっさんの乗る電車がやってきて、
まだ雨が降っていた。

目で電車を見遣ると、
車内でおっさんが、地面に平行に腰のまがった婆さんを手伝ってた。

眠そうだった。

電車がなかなか来ないので、
長いアクビをした。

雨が降ってるのに、星が見えた。

たんぽポ

log [ コラム ] — s_o @ 04. 5月, 2004

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そもそも苦しいのって、ヒトビトがオノレ自身に与える名前な気がする。

自分らしさ、とか考えてる暇があったら、
果てしなく無意味なよそ見をいつまでもしてたい。

答えがもしあるのであれば、
その答えを求めることだけはしたくない。

マイ定規を打っ立てて安心してる場合やない。

自我を正確にハカッたとこで、伸びてなんかない。

選挙カーのおばちゃんが拡声器ごしに届けた
『ぼくぅ、ありがとねっっ』。
振りまいた営業スマイルに救いを確信して
トなり町まで自転車で追い掛けたアの日と、

自転車に乗りミニスカートの裾を風になびかせる女の子のパンてぃ追って
異国の路地で迷子になる現在、

知らない場所で感じた気持ちも、見える景色も
なにひとつ変わらない。

もしここに自分の意識なんてものが存在するんなら、
それはアスファルトに着地したタンポポの綿毛みたく
意義も価値も目的も理由も無い、暗澹とした無名の闇なのだと思う。

自分自身である、ということと
この世界が在る、ということには
イッペンの拘わりもなく、
そしてそのどちらも、あまり重要なことじゃない。

つまんで拾い上げた綿毛を、街路樹の土の上に置くと
風が巻き上げて、通りを行き交う車の波に翻弄された。

それはいつかきっと、
選挙カーを下りて家路につくおばちゃんの赤いハイヒールに
世界の影を映すのだった。

終わりも、始まりもない。

おばちゃんの買った3個100円のコロッケと一緒に
デタラメで遠い記憶になって世界を支配しつづける。

昨日食ったものを思い出すついでに、
世界がもうずっと昔に葬った名前を思い出そうとする。

ほんとに努力と呼ばれるべきものは、きっと努力になりえない。

(c) 2019 sub-tle.